米沢発 山形おきたま伝統野菜 うこぎ博物館

うこぎの栄養価・効能

 うこぎの葉の栄養成分をほかの食材と比較すると、明らかにビタミンとミネラルが豊富であり、特にカルシウム、ビタミンA、ビタミンCが多く含まれています。

図1)ウコギ葉の栄養成分比較(可食部100gあたり)

 うこぎの葉には、サポニン類が多く含まれていることが知られています。また、抗酸化性の強い成分として、クロロゲン酸やルチンなどが、乾燥うこぎ葉にそれぞれ約1%含まれています。これは、ポリフェノール類のひとつであり、高い抗酸化性をもつことで知られ、注目されている物質です。しかし、この物質の含有量は、うこぎ生産地(生産条件)によって影響を受けます。

図2)クロロゲン酸とルチンの含有量の産地による比較

 図2は、AからDの4地点から採取したうこぎ葉について分析した、クロロゲン酸とルチンの含有量です。それぞれのポリフェノール量は産地によって明らかに異なり、また、AとCでは、クロロゲン酸に比べてルチンが著しく少ないことがわかります。土壌や肥料、あるいは日照時間など、生育条件が異なるためと思われます。今後、うこぎを機能性食品として利用する場合、この点に注意が必要です。


【抗酸化性】

 電子スピン共鳴分析法で、いろいろな食品や飲料のスーパーオキシド消去能力すなわち抗酸化性を調べ、図3のような結果が示されています。このなかで、うこぎ生葉のスーパーオキシド消去活性値は、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)換算値で約1500U/gであり、一般の緑色野菜よりかなり高い値を示すことがわかります。この活性値は、生葉を5分間電子レンジで加熱しても変化せず、また、90℃の熱水で2分間茹でたものも生葉の70%程度が残存します。しかし、100℃で90分間乾燥したものや褐色に変化したものでは10%以下に低下してしまうので注意が必要です。また、酸性(pH3.6)にしても、塩分(5%)を添加しても、消去活性に変化はみられません。

図3)スーパーオキシド消去能の比較

 保存する場合は、褐色にならないようにするため、冷凍(-20℃)保存、凍結乾燥、陰干し乾燥、電子レンジ乾燥が有効と思われます。図2のデータは、夏に採取したうこぎ葉のものです。季節によって、抗酸化性能は大きく変動し、春の新芽のころは低く夏から秋にかけて活性が増大する(夏に強烈な日光にさらされたうこぎ葉は、自ら身を守るために抗酸化物質を増産する)ので、機能性を重視する場合には夏場のものが最適です。


【コレステロールの低下作用】

 ウコギ摂取が血清および肝臓脂質に及ぼす影響がコレステロール負荷ラットを用いて検討されている(山田、1999)。ウイスター系雄性ラット(5週齢)を4群とし、コレステロール無添加飼料、0.5%コレステロール添加飼料、コレステロール添加飼料に2%うこぎ茶を供与、コレステロール添加飼料に2%ウコギ粉末の混合飼料でそれぞれ2週間飼育し、血清および肝臓の各脂質濃度が測定された。その結果として、体重増加率、飼料摂取量および飲水量、飼料効率、相対肝湿重量には有意な差は認められないこと、血清総コレステロール濃度はコレステロール負荷により著しく上昇するが、ウコギ摂取によってコレステロール濃度の上昇は有意に抑制されることが示されている。また、動脈硬化指数もコレステロール負荷により顕著に増大するが、ウコギ摂取により有意に低下することが明らかにされ、また、これらの効果はウコギ粉末摂取のほうがうこぎ茶摂取より大きいことが示されている。


食後血糖値上昇抑制効果と耐糖能

 ウコギ葉には、ポリフェノール類と食物繊維が多量に含まれていることを述べた。この事実から予想されるのは、血糖上昇抑制効果である。ウコギ葉の食後血糖上昇抑制作用を検討する目的で、ラットへの糖負荷試験が行われた(田渕、2004)。図4に、ラットにウコギ葉と同時に、可溶性デンプン、マルトース、グルコースを経口投与したときの血糖上昇値変化を示す。ウコギ葉摂取がマルトースおよびグルコース投与後の血糖上昇を有意に抑制することが示されている。また、試験管内実験においてウコギ葉のマルターゼ阻害活性を認めている。とくに、ウコギ葉の水溶出部および1%アンモニア/メタノール溶出部が高いマルターゼ阻害作用を有することを明らかにしている。以上により、ウコギ葉はマルターゼ阻害作用およびグルコース吸収抑制により、食後の血糖上昇を抑制すること、マルターゼ阻害作用はウコギ葉に含まれるポリフェノール成分が関与している可能性が高いと説明している。

図4)ラットへの糖負荷試験の結果 図5)2型糖尿病ラットの空腹時血糖値に及ぼすウコギ葉の影響

 ウコギ葉の新生児期のストレプトゾトシン投与による2型糖尿病ラット(n-STDラット)の空腹時血糖値および耐糖能に及ぼす影響が検討されている(田渕、2003)。n-STDラットは生後2日目の新生児に80mg/kgB.W.のSTZを投与して作成された。8適齢からn-STDラットには標準飼料(DM群)、ウコギ葉粉末(10%)混合飼料(DM-U群)を10週間摂取させた。実験終了時すなわち摂取10週間後におけるDM群の空腹時血糖値は、正常値に比べても明らかに増加していたが、図5に示すようにウコギ葉粉末を与えたDM-U群はDM群より有意に低値であること(P<0.05)から、ウコギ葉がn-STDラットにおいて空腹時血糖値を改善していることを明らかにしている。また、この研究では耐糖能および血清中性脂肪の改善効果も述べている。このような作用を示すのは、ウコギ葉にはポリフェノール類が多量に含まれていること、また、多量の食物繊維が含まれていることによるものであると推定された。

図6)ウコギ茶の長期摂取の食後血糖値上昇抑制作用

 このような動物実験の結果を受けて、ヒト試験について検討がなされている(山田、未発表)。健常人約40名を対象に、ウコギ茶の効果を調べたところ、ウコギ茶は健常成人の食後の血糖上昇を抑制し、食後血糖値が上がりやすい人に対して有効であった。また、図6に示すように、ウコギ茶の長期摂取によって、食後の過度な血糖上昇が改善された。なお、ウコギ茶の長期摂取による臨床上問題となる変化は認められなかった。そのため、ウコギ茶は糖尿病予防食品として期待できると結論した。

 以上のように、ウコギ葉には血糖上昇抑制が認められた。その生体内機構として、ウコギ葉の成分であるポリフェノール類が、糖化酵素(マルターゼ)を阻害することで麦芽糖からグルコースへの変換を阻止し、また、食物繊維がグルコースの吸収を阻害することで、食後血糖上昇を抑制している。食後血糖上昇抑制は、結果として空腹時血糖上昇も抑制するものと考えることができる。また、高い抗酸化力によって酸化ストレスが軽減されるため、糖尿病による合併症の発症も抑えることが期待される。